「レーヨン・シルク」という素材表記に、私は少し引っかかりました。プラダの2026-27年秋冬ウィメンズコレクションから登場した、スリングバックパンプスのアッパーに使われている素材です。艶やかで華やか、というのは分かります。でもレーヨンもシルクも、水や摩擦には繊細なイメージがあります。そこにビーズ刺繍まで乗るわけですから、このパンプスは最初から「雨の日に履く靴ではない」と宣言しているようなものだと思うのです。
色はピンクとグリーンの2種類。揺れ動くドロップ型のビーズや、花をかたどった装飾があしらわれ、刺繍糸の先端をあえて長く残してラフさを加えているそうです。華やかさと、少し雑な感じが同居しているのは、面白い発想だと思います。
ただ、私の本命はこの靴ではありません。
目を奪われたのは、レザーのハイキングシューズのほうです。ボリュームのある佇まいが印象的で、レザーをハンマーで打ち付けたり、やすりでスクラッチしたりしてダメージを加え、ヴィンテージ感のある風合いに仕上げているとのこと。新品の靴を買うとき、いちばん緊張するのは、最初に傷をつける瞬間です。電車で誰かの荷物に当たった、段差でこすった、そんな小さな出来事で気持ちが沈む。それなら、最初から傷や表情が入っている靴のほうが、気楽に履き出せるかもしれません。これは単なる「ダメージ加工」ではなく、「傷を怖がらなくていい」という安心感を売っているのだと、私は受け取りました。
ここで、本当の悩みどころが出てきます。履き込んだ風合いがほしいなら、普通のブーツを買って自分で育てればいいのではないか、という問いです。たとえばドクターマーチンやティンバーランドのように、昔から愛されてきた靴を買い、時間をかけて足になじませ、傷も含めて自分の靴にしていく。そういう楽しみ方は確かにあります。ただ、その過程には、足に合うまでの靴ずれや、気が向かない日が続くリスクもあるでしょう。プラダのように最初から風合いが整っている靴は、その手間をまるごと省けます。
とはいえ、気をつけたいことがあります。
履き込んだ「風」と、履き込んだ「本物」は別物です。自分の歩き方や体重のかけ方が刻んだ傷は、世界に一つだけのもの。一方、加工で作られた傷は、誰が買っても同じ方向に入っています。それを「完成された表情を買う」と見るか、「味が薄い」と見るか。ここは価値観の問題です。私は、育てる時間がない人にとっては、前者のほうが合理的だと思います。
次に、ソックスについても触れておきます。白い花々の刺繍が入ったハイソックスは、バーガンディ、ブラック、グレー、ネイビーのダークトーンです。ただし、公式の説明では、パンプスや短靴を履いたときに足首へ花柄が見えるデザインとされています。ボリュームのあるハイキングシューズに合わせて花を見せたいなら、シューズの丈やソックスの見え方を、実物で確かめる必要がありそうです。ハイキングシューズには無地のソックス、花柄はパンプスの日に。そんなふうに使い分けるほうが、無難だと思います。
もう一つ、実用面の話をします。ボリュームのある靴は、見た目の迫力と引き換えに、重さが気になるものです。ワンピースやロングスカートに合わせれば、足元の重みが全体のバランスを整えてくれるでしょう。反対に、細身のパンツと合わせると、靴だけが主張してしまう恐れもあります。いずれにしても、実際に足を入れて、歩いて、重さと履き心地を確認してから決めるべき靴です。写真だけで判断するのは危険だと思います。
結論です。買うなら、ハイキングシューズ。ダメージ加工の風合いを最初から楽しめて、傷を怖がらずに履けるのが最大の魅力です。パンプスは、見た目の華やかさは認めつつ、特別な日専用と割り切れる人向け。ソックスは、予算に余裕があれば追加する、という順番がちょうどいいと思います。これらの新作は2026年7月より順次、プラダ直営店で発売されています。価格が原文に書かれていないため、金額を確認したうえで、自分の生活に何足分の出番があるかを考えてみてください。